脳神経科学とITを組み合わせた事業領域はブレインテック(BrainTech)と呼ばれています。アメリカなどではニューロテック(NeuroTech)と呼ばれることも多いですが、その市場規模は三菱総合研究所の試算によると2024年には5兆円規模になると予測されるなど、最も展望のある事業領域の一つです。
ブレインテック・DTxプロジェクトを進める株式会社メディアシークが、「ブレインテック カオスマップ2021」を作成しました。
「ブレインテック カオスマップ2021」は、2020年5月にメディアシークが公開した「ブレインテック カオスマップ2020」をアップデートしたものです。ブレインテック関連市場を分類するカテゴリーを
“NeuroMonitoring / Imaging”
“Brain-computer interfaces”
“NeuroFeedback”
“Cognitive Assessment & Enhancing”
“NeuroModulation”
“Research”
“Other”
の7カテゴリーに変更し、掲載企業数を増やすと同時に国内外の代表的な研究機関も追加しました。
カオスマップ作成の背景
各国が推し進める脳神経科学研究の進展に伴い、脳神経科学とITを組み合わせたブレインテックは拡大を続けています。ブレインテック産業は、現代のバイオテクノロジーの分野において、最も有望で展望のある分野の一つであると言われています。
メディアシークは、ブレインテック事業を進める中で、2020年に日本を中心に代表的なブレインテック企業を掲載した「ブレインテック カオスマップ2020」を公開しました。2021年度版となる今回のカオスマップでは、企業を分類するカテゴリーを、2020年に公開された「Global NeuroTech Industry Landscape Overview 2020」のカテゴリー分けに準拠し、さらに代表的な研究機関をResearchというカテゴリーで追加したものです。
「Global NeuroTech Industry Landscape Overview 2020」はこちら
https://www.neurotech.com/
各カテゴリーについて
・NeuroMonitoring / Imaging
人間の脳は、何十億ものニューロンが非常に複雑に相互接続された神経ネットワークを持つ、非常に複雑な器官です。脳は記憶、感情、身体の動きなど人間のあらゆる行動に密接に関係しており、脳に傷がついたり、病気になったりすると、脳の電気化学的なネットワークに機能障害が発生します。
現代医学では、体温、体重、体脂肪率、コレステロールなど様々な健康指標を測定し、管理する方法が無数にあります。同様に脳についても、磁気を使ったMRI(核磁気共鳴画像法)やX線を用いた頭部CTスキャンなどで脳を画像化することで診断に役立てています。また、脳波計(EEG)や脳磁図(MEG)を使うことで脳内の反応や動きを計測することもできます。
・Brain-computer interfaces
ブレインコンピュータインターフェース(BCI)は、脳の信号を受け取り、それを分析しコマンドに変換してコンピュータに送ります。ブレインマシンインターフェース(BMI)とも呼ばれます。
信号を受け取る方法は、頭の内部にチップを埋め込む手術が必要な侵襲型のものもあれば、頭皮脳波などを計測する非侵襲型のものもあります。BCIの主な目的は、脳卒中や脊髄損傷などにより身体が動かせない患者の機能を代替・回復することです。
一方で、考えただけでコンピュータが動く仕組みは健常者にとっても娯楽、ゲームなどに応用でき、日常生活を一変させる可能性を持っています。
・NeuroFeedback
ニューロフィードバックは、バイオフィードバックの一種です。バイオフィードバックは体温計のように、身体の状態をデジタルな指標にして本人にフィードバックするものです。これを脳の状態に対して行うのがニューロフィードバックです。身体情報をリアルタイムにフィードバックすることで、それを制御できるようになることが知られています。
NeuroMonitoring / Imagingの項目でご説明した通り、脳の状態を可視化する方法はいくつかありますが、ニューロフィードバックには脳波が使われることが多いです。数値として可視化した脳波などの情報を、リアルタイムにフィードバックして制御するニューロフィードバック療法は、ADHDやてんかん、うつ病など様々な神経疾患の治療に用いられています。
・Cognitive Assessment & Enhancing
人間の認知機能は、年齢とともに低下していくことが知られていますが、様々な研究で認知トレーニングを行うことで認知機能が向上することが示されています。社会の高齢化が進むなかで、認知機能を正しく評価し、向上させるサービスの需要が高まっています。
認知機能の評価と向上を行うサービスには、瞑想やビデオゲームだけでなく、運動や栄養食品、スマートドラッグなど多くの種類があります。
・NeuroModulation
ニューロモデュレーションとは、脳に外部から何らかの刺激を与えることで神経活動を変化させることを言います。外部から与える刺激にも投薬など多くの種類がありますが、よく使われているのが電気刺激と磁気刺激です。刺激を与える箇所も、脳深部や脊髄、迷走神経など様々です。
パーキンソン病などの治療のために脳深部に刺激を与えるには手術により電極を埋め込む必要がありますが、手術を必要としない刺激法もあります。最も一般的な非侵襲の電気刺激は「経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)」と呼ばれ、磁気刺激は「経頭蓋磁気刺激(TMS)」と呼ばれています。これらは大うつ病や統合失調症などの神経疾患の治療以外にも、スポーツパフォーマンス向上など様々な目的に使用されています。
・Research
今回「ブレインテック カオスマップ2021」を公開するにあたり、国内外の代表的な研究機関をまとめました。アメリカのBRAIN Initiative、EUのHuman Brain Projectなど国家規模の研究支援を受けて、各国の研究機関で脳神経科学の研究が活発に進められています。
日本においても、「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(Brain/MINDS)」の中心となっている理化学研究所など、複数の研究機関を掲載しています。
・Other
上記のカテゴリーに含まれないサービス、もしくは複数のカテゴリーにまたがった事業をすすめている企業を掲載しています。
ブレインテックは脳に関わるビジネス領域のために応用範囲が非常に幅広いという特徴があります。例えば映像や音楽などのエンタメにもブレインテックは活用できますし、脳の反応を計測することでアンケートでは汲み取り切れない顧客の反応をマーケティングに活かそうとするニューロマーケティングなど、多種多様な活用方法があります。
※マップ記載のロゴ・サービス名称の表記につきましては、各社様に事前許諾を得たものを掲載させていただいています。使用上問題がある場合や、掲載を希望する場合は、恐れ入りますが「 braintech@mediaseek.co.jp 」までご連絡ください。
※このカオスマップはブレインテックに関する取り組みを実施している企業や研究機関のプレスリリースや製品サイト、導入実績などの公開情報を基にメディアシークが独自の視点で取りまとめたもので、網羅性や正確性を完全に担保するものではありません。