バーコードコラム

QRコード関連のビジネスモデル / マネタイズモデル

2023.10.04

QRコードの開発元はご存じ、日本の自動車部品メーカーであるデンソーの応用機器技術部門(現在のデンソーウェーブ)ですが、デンソーが仕様をオープンにしたことおよび、特許権の権利行使をしていないことは知っていますか?

 

デンソーウェーブはQRコードに関して下記の特許を保有しています。しかし、権利を行使していないので、特許料で儲けてはいません。

JP2938338 二次元コード
JP2867904 2次元コード読取装置
JP3716527 2次元コードの読取方法
JP3726395 2次元コードおよび2次元コードの読取方法
JP3843595 光学的情報印刷媒体、光学的情報読取装置及び情報処理装置
JP3996520 二次元情報コードおよびその生成方法
US5726435 Opticaly readable two-dimensional code and method and apparatus using the same
US5691527 Two dimensional code reading apparatus
US7032823 Two-dimensional code, methods and apparatuses for generating, displaying and reading the same
他数百件

(引用: https://www.qrcode.com/patent.html

 

普通、営利企業は自社の知的財産をライセンスしてロイヤリティを徴収することで収益化するものなので、デンソーが採った戦略はなかなかイレギュラーであったといえます。何故、特許権の行使をしないという決断をしたのでしょうか?

 

それは、デンソーの狙いがQRコードを含む2次元コードリーダー端末の販売拡大にあったからです。そのためには仕様オープン化・特許権利不行使によってQRコードを広く普及させる必要がありました。

 

そうしてQRコードは私達の日常に不可欠な存在にまで成り上がっていきました。きっかけとしては、2002年頃にQRコード読み取り機能を搭載した携帯電話機が登場したことが大きかったようです。

 

その後2010年代に入ってスマートフォンが普及しだし、携帯電話機用――いわゆるガラケー用――ではないフルのWebサイトへアクセスできるようになると、それにつれてQRコードもさらに一般化しました。

 

しかし、携帯電話やスマートフォンでのQRコード読み取りが普及するにつれ、デンソーウェーブでは2次元コードリーダー端末販売をビジネスの中心に据えることは困難になっていったのだそうです。

 

(※2018年、BUSINESS INSIDERによる、デンソーウェーブ AUTO-ID営業部 マーケティング室 エンジニアリング部 コトづくり推進室 担当課長 田野敦氏取材記事より)

 

そこで現在のデンソーウェーブは、QRコードを用いたシステムソリューション提供をメインビジネスとしています。

 

ここから分かることは、いかに開発元といえど、ひとたび発明したからには後はもうずっと左うちわ…というわけにはいかない、ということです。時代の移り変わりを敏感に察知して状況に即しながら、その時々で需要あるビジネスモデルを作り、社会に価値提供することで存在している、といえます。

 

そもそもの話、ライセンスフリーにしなければ左うちわを狙えたのでは?…と考える方もいるかもしれません。これについては、デンソーウェーブの広報担当者が日刊ゲンダイDIGITALの2019年の取材に応じて

 

具体的な金額をあげることはできませんが……QRコードで稼ごうとしていたら、ここまでにはならなかったのではないかと思います

 

と回答しています。ライセンスフリーにしてさえいなければ左うちわ…というわけではなかった、と解釈できそうではないでしょうか。

 

さて、QRコード開発元のビジネスモデルの歴史を簡単におさらいしてみましたが、この流れは、QRコードを取り巻く各ビジネスプレーヤ達のビジネスモデル変遷ととても似通っています。次節では、それぞれの代表的存在などをみていきます。

 

 

■2次元コードリーダー端末の製造販売

国内メーカーの例としては以下が挙げられます。

デンソーウェーブ
https://www.denso-wave.com/ja/adcd/
キーエンス
https://www.keyence.co.jp/products/barcode/
オプトエレクトロニクス
https://www.opto.co.jp/products.html
デンソーウェーブは本家本元、QRコードの開発元です。キーエンスは経済系のTV番組などでときおり「謎の高収益企業」と紹介されたりすることもある企業です。オプトエレクトロニクスは2次元イメージャ、1次元レーザ / CCDのモジュールエンジンから製品群までを手がける国内唯一の専業メーカーです。

 

“携帯電話やスマートフォンでのQRコード読み取りが普及するにつれ、デンソーウェーブでは2次元コードリーダー端末販売をビジネスの中心に据えることは困難になっていったのだそうです” と上に書きましたが、2次元コードリーダー端末が絶滅したわけではもちろんありません。ハンディターミナル型端末はスマートフォンで代替されるケースもあると思いますが、製造現場での用途には定置式スキャナが使われますし、また、パスポートの読み取りや最近拡大中のセルフレジでは卓上スキャナが使われます。

 

デンソーウェーブ

 

(株式会社デンソーウェーブ公式サイトのAUTO-ID製品ページ https://www.denso-wave.com/ja/adcd/ より)

 

キーエンス

 

(株式会社キーエンス公式サイトのバーコードリーダ商品情報トップページ https://www.keyence.co.jp/products/barcode/ より)

 

オプトエレクトロニクス

 

(株式会社オプトエレクトロニクス公式サイトの製品一覧ページ https://www.opto.co.jp/products.html より)

 

 

■QRコード読み取りスマートフォンアプリの開発提供

 

2008年、黒船・iPhone 3Gが上陸し、日本のスマートフォン元年となりました、その後2011年に東日本大震災が起こり、いち早い情報を求めてTwitter(現:X)に人々が押し寄せ、またそれと前後してAndroidの使い勝手がよくなってきていたこともあってか、2015年には携帯電話所有者のスマートフォン比率が5割を突破しました。

 

こうした短い歴史の中で、日本人はそれまで馴染みのなかった「アプリストア」「スマートフォンアプリ」という存在に慣れていきました。その中にはもちろん、「QRコードリーダー」もありました。弊社が開発・提供しているQRコードリーダーアプリ『アイコニット』は2012年に公開開始し、昨2022年には累計3,500万ダウンロードを達成しています。

 

アイコニット

(株式会社メディアシークのアイコニット公式サイトトップページ https://www.iconit.jp/ より)

 

QRコードリーダーアプリには有料のもの / 無料のものがあります。無料アプリの中には、アプリ内に広告を表示することでマネタイズしているものが多数あります。広告を入れることでユーザー向けには無料でサービスを提供する、というのは、Googleが超巨大企業に成長する上でエンジンとなった戦略です。

 

広告非表示の無料アプリというのもありますが、アプリの継続性やサポート体制を考えると、何らかのマネタイズモデルがあるほうがユーザーとしてはむしろ安心、といえるかもしれません。

 

ちなみに「アイコニット」は基本無料ですが、買い切りの有料オプションが用意されており、購入すると広告を非表示にできます。これは「フリーミアム」モデルといわれます。

 

なお2017年のiOS 11からはQRコード読み取り機能がOSの標準となり、相対的に、機能やサービスに独自性がないリーダーアプリの生き残りは難しくなっています。

 

※Androidは2018年のAndroid 9以降で対応している機種あり
(参考: https://www.android.com/intl/ja_jp/articles/32/#sub-section-2-2

 

 

■システムソリューション

 

1次元コード、2次元コードともに、コードに格納されているデータ自体が意味をもっているわけではありません。例えば、特定の会社<a>で使用されている製造品管理番号が1次元コードに格納されているとして、それを一般のスマートフォンのバーコードリーダーアプリで読み取っても、ただ数字が表示されるだけです。バーコードスキャナで読み取られたデータが、<a>社業務用に開発された読み取り・照合・処理システムに連携されて、それで初めて有用に動作します。

 

こうしたシステムを開発するのはシステム開発会社の役割となります。これがシステム開発会社にとって大きな受注案件となっていました。

 

一方、QRコードの用途は、大半がURLであるとみられます。URLもただの英数記号文字列でしかないのですが、Webがこれだけ浸透した世の中においては、読み取ったデータがURLであった場合はブラウザで開くようにしておくのが、リーズナブルというものです。すると、
QRコードの用途としてURL格納が普及
→ QRコード経由で自社Webサイトにアクセスさせるのが誘導経路として一般化
→ QRコードの用途としてURL格納がさらに普及
→ …

というスパイラルが起きます。

 

この結果、QRコードで誘導した自社Webサイトへのアクセス効果分析をしたい、というニーズが出てきました。こうして、クラウドで動作するアクセス効果分析ツールという新たなサービスが生まれました。

 

単なるアクセス効果分析だけではなく、そこから発想を拡げた独自のサービス開発も各社、行っています。例えば、弊社『アイコニットマネージャー』は、QRコードを読み取ってアクセスしてもらった後に、読み取ったリーダーアプリ内にアクセス先の店舗からのタッチポイントを生成し、そこをベースに店舗からの情報プッシュを行うことができるという、CRM(Customer Relationship Management)ツールの一面をもっています。

 

 

■QRコード決済

2015年頃から新聞紙面などを賑わせるようになった新語に「フィンテック」があります。Finance + Techの造語で、特定のサービスを示すものではなく、テクノロジーの力で実現するようになったお金まわりのサービスの新潮流を総称する語です。

 

その「フィンテック」の一つと見なされているのが、QRコード決済です。

 

キャッシュレス大国の中国ではいたるところでQRコード決済が使え、現金を見る機会ももはやほとんどない、と聞きます。QRコードの生みの親といわれるデンソーウェーブの原昌宏氏もQRコードが決済用途で使われるのは想定外だったと言っており、QRコードの新しい使われ方として近年最大のものといってもいいのではないでしょうか。

 

ただ、日本はキャッシュレス後進国といわれて久しいです。

 

現時点では日本のキャッシュレス決済比率は36%しかないそうです。うちクレジットカードが金額ベースで約85%、支払件数ベースで約53%で、どちらも1位。コード決済は金額ベース・支払件数ベースともに2位ですが、それぞれ約7%、約24%と、1位クレジットカードに大きく差をつけられています。

 

参照:Impress Watch(1)
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1524549.html

 

しかし日本でQRコード決済を含むキャッシュレス決済率が上がることは期待できないのか、というと、必ずしもそうともいいきれません。

 

日常生活において「7~8割程度以上キャッシュレスを利用する」と回答した人が54%いるなど、特定のセグメントの中では、キャッシュレス決済が既に生活に浸透していることが分かる調査結果もあります。また業種別にみると、コンビニではキャッシュレス決済の中でも特にコード決済が中心という傾向があります。

 

参照:Impress Watch(2)
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1487458.html

 

すなわち、QRコード決済が購買単価的に合っているケースであれば、常用に至る可能性も大いにあるのではないか、と考えられます。

 

日本では今はまだ一部の人のものでしかないQRコード決済ですが、決済手段として一般化すれば、今はまだないサービス / システム(他フィンテックとの連携など?)/ マーケティング / プロモーションなどが新たに生まれることが期待できます。ひいては、新しいQRコード関連ビジネスモデルおよびマーケットも誕生するものと思われます。

 

※本コラムに掲載した商品名、サービス名、会社名またはロゴマークは、各社の商標、登録商標もしくは商号です。
※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。

株式会社メディアシーク
〒108-0072 東京都港区白金1丁目27-6 白金高輪ステーションビル
https://www.mediaseek.co.jp/
IR・広報担当 E-mail:press@mediaseek.co.jp

システム開発・
コンサルティング
カスタムメイド・システムソリューション
パッケージソリューション
お客様の声
お役立ちコラム
システム開発・コンサルティングのお問い合わせ