医療現場における医療用医薬品の管理は非常に複雑かつ重要です。具体的には医薬品の取り違えといったヒューマンエラーの防止や不正流通や偽造品の混入を防止するためのトレーサビリティ、在庫切れや過剰在庫などの問題を未然に防ぐ必要がありますが、そのためのツールとしてバーコードが大いに役立っています。
2006年に厚生労働省が、医薬品の取り違え事故防止や有効期限の管理、トレーサビリティの確保などを目的として医療用医薬品ではJANコード、ITFに代わって以下の4種類のGS1データバー及びGS1-128というGS1バーコードを使用することが通知され、2022年12月1日よりそれらの表示が義務化されました。
・GS1データバー限定型
・GS1データバー二層型
・GS1データバー限定型合成シンボルCC-A
・GS1データバー二層型合成シンボルCC-A
・GS1-128(CODE128)
参考情報:「医療用医薬品特定用符号表示ガイドライン(日本製薬団体連合会)」
先に挙げたガイドラインには理由として以下の5つが挙げられています。
(1)医療用医薬品取り違えによる医療事故防止
(2)トレーサビリティ確保の観点等を踏まえたその後の変化
(3)調剤包装単位への特定用符号表示および販売包装、元梱包装への変動情報の表示必須化
(4)薬機法改正による表示の義務化
(5)添付文書の電子化
処方箋に基づいて薬を処方する際に、間違えた薬を処方してしまっては大問題になってしまいますが、薬を目視確認するだけではなく薬に貼られているバーコードを読み取って確認することで、それが処方された薬と間違っていないかをより確実に確認することができるようになります。
トレーサビリティ確保とは最近ではよく聞かれる言葉ですが、GS1データバーによって薬の製造工程や検査工程などを把握したり、薬の在庫管理、配送、販売などの一連の流れを追っていくことができるようになります。また医療用医薬品には有効期限や製造番号などの変動情報表示が必要な生物由来の医薬品といったものもあり、それらもGS1データバーで管理が可能となっています。
さらに、バーコードは電子カルテシステムや電子版お薬手帳と連携することで、投薬履歴を自動的に記録し、医療の透明性を高めることで、患者に提供される医療サービスの質をも向上させます。
バーコードは医薬品の在庫管理にも大いに貢献します。薬剤がどの段階にあるかをリアルタイムで追跡できるため、在庫の最適化が可能となり、無駄のない調達が実現します。最近ではスマホアプリでその薬のバーコードを読むと、それが処方箋に指示されている薬と合っているかどうか(間違っているとアラートが表示される)が確認できると共に、薬のリアルタイム在庫管理もできるというサービスも登場しています。このように、バーコードは医療現場の効率性を高め、医療従事者が本来の業務に集中できる環境を整える役割を果たしています。
さて、実際にGS1データバー及びGS1-128がどのように医療用医薬品に使われているのかの具体例を見ていきましょう。
「調剤包装単位」(薬を包装する最小の包装単位のこと)
薬の形状には錠剤、カプセル剤などがありますが、これらはPTP包装シート(錠剤やカプセルをプラスチックとアルミで挟んだシート)に入っていることが多いと思います。このPTPシートにその薬のバーコードが印刷されています。ここで使われているのは「GS1データバー限定型」で、印字する面積が小さい場合にはバーコードが二段になった「GS1データバー二層型」が使われています。
生物由来製品(ワクチン、血液製剤など植物を除く人やその他の生物の細胞からできている薬)や特定生物由来製品(輸血用血液製剤など主に人の血液や組織に由来する薬)には有効期限と製造番号が必要とされることから「GS1 データバー限定型合成シンボル CC-A」が、印字する面積が小さい場合には「GS1 データバー二層型合成シンボル CC-A」が使われています。
「販売包装単位」(薬の販売業者から病院や薬局に販売される最小の包装単位のこと)
これも「調剤包装単位」と同じように、薬の包装が入った箱に「GS1データバー限定型」「GS1データバー二層型」や「GS1データバー限定型合成シンボル CC-A」や「GS1データバー二層型合成シンボル CC-A」が使われています。
「元梱包装単位」(販売包装単位を複数入れた箱。段ボールなど)
この箱にはGS1-128というシンボルが使われています。
バーコードの情報が正しくスキャンされることで、迅速かつ正確な医薬品の管理が可能となります。そのためにはバーコードのサイズや配置に関するガイドラインも重要です。医療現場での使用を考慮し、バーコードは容易にスキャンできる位置に配置され、かつ視認性を確保するために適切なサイズで印刷される必要があります。また、バーコードの印刷品質も重要な要素ですし、医療現場での長期間の使用に耐えうる耐久性を保つことが求められます。
ここまで医療用医薬品の各種バーコードについて書いてきましたが、ではそれらのバーコードをどうやって読むのか。よく見るJANコードだけではなく、二層型だの合成シンボルだの、多様な種類のバーコードが使われている医療用医薬品バーコード。これまでは読取り精度を確実なものにするために、これらに対応した高性能なバーコードリーダー(バーコードスキャナー)が使われてきましたが、昨今ではスマートフォンのカメラを使って読むアプリ(以下スマホアプリとします)も登場しています。
当社のQRコード/バーコードを読み取るライブラリ(スマホアプリなどへの組み込みソフトウエア)の「CamReader」は、多様なバーコードを素早く読む高性能なライブラリとして知られていますが、2024年7月9日に「GS1データバー二層型」「GS1データバー限定型合成シンボル CC-A」や「GS1データバー二層型合成シンボル CC-A」のバーコード読取りに対応をしていますリリースをしています。
もちろんこれらのバーコードを読んだだけではどうしようもなく、読んだ後にシステム処理をすることで「医療用医薬品特定用符号表示ガイドライン(日本製薬団体連合会)」で書かれている医療事故防止やトレーサビリティ確保などが実現可能となります。
病院や薬局など医療関係の職場は人手不足や過労状態が続いている状況ですが、薬だけでなく医療機器においてもバーコードによるIoT化、DX化は進められています。それによってより医薬品の管理や安全性の高度化、医療関係現場の省力化、さらにはそうしたデータを活用したビッグデータの有効利用が進んでいくと思われます。
なお、「医療用医薬品とバーコード」というテーマでもう1つ忘れてはならないものにお薬手帳アプリ(電子版お薬手帳)がありますが、それは別の稿で説明をさせていただきます。
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