老師オグチの家電カンフー

まだ脳トレで消耗してるの? 脳活動計測デバイス「MUSE2」でフォースを獲得?

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
InteraXon「MUSE2」実勢価格38,500円

少年マンガやハリウッド映画で、主人公の成長が肉体的な修行から精神的な修行へとシフトしている気がします。とくに21世紀以降は、その傾向が強まってきています。「巨人の星」や「ロッキー」に代表される筋肉第一主義は過去のものとなり、アメコミ原作の映画であっても精神的修行のためにインドやらチベットの山奥に行ったりする。その背景には、マインドフルネスやヨガの流行があるのでしょう。

もともと東洋の文化ですから、日本人にはなじみ深いはずですが、それだけに宗教的なイメージも強く、「カルトに洗脳されたくない」という意識も強く働きます。なので、「グーグルの本社でも採用されているマインドフルネス」といったエクスキューズが、いまだ必要だったりします。禅じゃなくてZENみたいな。瞑想も、人や団体を介さない科学的アプローチだと安心できるのです。

3年ぐらい前に、この連載で脳活動計測デバイスの「MUSE(ミューズ)」を紹介しましたが、今回は後継機の「MUSE2」発売のお知らせをいただき、1カ月ほどお借りしました。「MUSE2」では、従来の脳波のほかに、心拍数や加速度、呼吸も計測できるようになっています。今回は月額課金制のトレーニングプログラム「Myndlift」を試すことにしました。

「MUSE2」(左)の形状は、前モデル「MUSE」とほぼ同じ
耳にかける部分は、よりスリムになっている(手前が「MUSE2」)
装着したところ。額と耳の後ろに当たる部分にセンサーがあり、密着させる必要がある

プログラムは「注意力」「記憶力」「長く続く痛み」「眠り」「リラックス」「気分を高める」「スポーツパフォーマンス」の7種類。いずれも「MUSE」で計測された脳波によって、キャラクターを操作するゲーム的なアプリとなっています。たとえば「Runner」というゲームでは、脳波が特定の状態になるとキャラクターが速く走る、「Fire」では炎が大きくなりパチパチと音がするといった具合です。

トレーニングが異なってもゲームの絵柄は同じです。違うのは、どんな脳波が求められるか。「注意力」のトレーニングでは、右前頭葉の脳波を分析。目の前のことだけに注意が向いていれば、ゲームの結果につながります。

個人的に気に入ったのは「Fire」で、他のことを考えず、目の前の炎をじっと見つめることで大きくなる。これは、ちょっと「X-MEN」の特殊能力っぽくて楽しいです。大画面で対戦モードとかあれば絶対に盛り上がるかと。

脳トレーニングアプリの「Myndlift」。利用には1プログラム3,300円の月額利用料金が必要
注意力やリラックス度など、脳波が求められる状態になるほど、火が大きくなる。右側にある円は脳波の状態を表している

また、「リラックス」トレーニングでは、α波優位の状態が求められます。これは、目を閉じた方が有利で、端から見ても一般的な瞑想に近いでしょう。先ほどの「Fire」では、音の種類や大きさで状態が判断できますから、目を閉じていてもフィードバックできます。

ラウンドの結果。DeepZoneやZoneが集中できている時間帯
こちらは「リラックス」トレーニングで求められる脳波の説明。α波を向上させ、β波とθ波を減少させる必要がある

今はただ頭部の表面から脳波を拾っているに過ぎませんが、ゆくゆくはMRIのように、脳のどの部分が発火しているかがわかる機械も登場するかもしれません。

さらに、ボディトラッカーのように常に計測し続ければ、日中の出来事と照らし合わせることができますよね。たとえば誰かに激怒して脳波が乱れまくったが、以前よりも落ち着くのが早くなった、というようなことが可視化されると、かなり人生の役に立つんではないでしょうか。

そういえば、精神的トレーニングが前面に押し出された初のSF映画は、「スター・ウォーズ」でしょうけど、エピソード3(シスの復讐)で子どものパダワンが訓練でかぶっているヘルメットは、脳活動計測デバイスに近いですよね。いつかフォースを使える日は来るのでしょうか? 少なくとも、仕事などで疲れている人には、暗算的なミニゲームが中心の脳トレよりもリフレッシュできるし、効果も高い気がします。

継続して使用すると詳細なレポートが確認できるようになる
もちろん「MUSE2」は既存のアプリ「Muse:Meditation&Sleep」でも使用可能。ゲーム的な要素は薄いが、普通に瞑想するならこれで十分

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>